ふるさと

うまく説明できなくていい

うまく語ろうともしなくていい

何者かなどと考えなくていい

大きく見せることをしなくていい

責めることに疲れたなら

戻ってゆけばいい

信じるものが見えなくなったら

愛するものをおもうがいい

本気でぶつかってきてくれるだろう

それが呵い話にもなるだろう

馬鹿な貌をした大人の子どもに会えるだろう

背を向けてもいつでも帰って来いと言うだろう

応援したい人がいる

喜んでくれる人もいる だから

認めてくれてもできるだけ目立たずにいたい

否定されることの尊さを噛みしめていたい

間違っても立派な

墓など建てようと望んではいけない

何かをのこそうなどと欲張ってはいけない

もしも遺すならば

風になるものを

かなしみの溝に染み入る

作者不在の

うたになるものを

誰もがわかる

平らなことばで

綴るのがいい

ふるさとは

最期に辿りつけるとおもえ

一本のすかすかの骨に

ようやくなれたとき

清々しいその

地の香りを

思いきり嗅ぐがいい

            作/市川恵子