Haiku

花鋏

花鋏

              市川綿帽子

母の手をひいて河津の花や夢

巣燕に沸く閉鎖病棟の庭

風車ほどいて紙の一枚に

病棟の人入れ替はる四月かな

若楓光りは透き間より溢れ

萎縮する海馬五月の児へ還る

親指に棘の余韻や薔薇の夜

灯の中にもう動かざる蠅のゐて

折鶴は無といふかたち沖縄忌

金網のフェンス突き抜け濃紫陽花

地球なほ何処かで雷のしてゐたり

気泡あるゼリー果実の息のあと

死顔に一生あらはつくつくし

新盆や長生きの本遺る棚

母恋し叔母よりシャインマスカット

キッチンの雌蕊に触れてみて夜長

檸檬ひとつ落つる闇夜の底知れぬ

横たはり石のこゑ聴く星月夜

遊女いま乙女のかほへ酉の市

さりさりと落葉踏みゆくあしたかな

木枯らしに耐へたる幹のなめらかし

厚き玻璃隔てても鳴る冬怒濤

カリフラワー脳を解剖する如く

皸や消毒液で貼る切手

昏きふるさと点線の寒オリオン

初富士の遠ざかりゆく車掌室

かけそばのつゆに吾の顔冴え返る

花鋏包みて墓へ春の空

空となる手桶擡けば百千鳥

遍路笠上げて日輪仰ぎけり

とんぼ14号

2022年7月29日